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2005.11.20
< コラム【読まずに詠むな!】第2回●佐藤真由美 >
枡野浩一監修の佐藤真由美『プライベート』
(発行=マーブルトロン、発売=中央公論新社)が、
集英社文庫になりました。
▲絵本のような作品集。
*
文庫版には一切タッチしていないのですけれど、
読み返すと感無量ですね……。
今出てる「フラウ」(講談社)の
連載「バイセクシャル・ラブレター」で、
佐藤真由美さんへの手紙を書きました。
そこでまあ、
だいたい書いてしまったのでコメントは省きます。
文庫版を読み返して、
改めて好きだなあと思った歌を挙げておきますね。
(原文は改行が多いのですが、私の判断で1行書きにしてみました)
帰りたい人にじゃあねと手を振って越える黄色と黒のシマシマ
一本の指のマニキュア乾くまで動けずにいるわたしの全裸
どうしても欲しいものとかあっていい 失くしたものの数より多く
本当の血な気がするものが出たときに電話に出ないあなたはきらい
なんとなく歩いて帰れるような気がして見下ろしたホテルの夜景
道のりの遠さにしゃがみこんだとき目が合ったからじっとしている
……もう名作として評価が定まっているものは外したのに、
それでもこの面白さ。
ハズレなし!
ネットでたまたま、
この本を読んで過剰に恥ずかしがっている人の
感想を目にしたのですけれど、
私はそれって、
むしろ読者の側の自意識の問題なのではないか、
と思ってしまいました。
あなたの中の、
決着のついてない恥ずかしさを作品に投影しちゃうんだよ。
作者はもっと大人でクレバーです。
この短歌で恥ずかしがっていたら、
ほかの現代短歌なんて、
とてもとても……(以下言葉を濁す)。
*
佐藤真由美の作品を私は、
ほとんどまったく添削指導していません。
「ポッケ」という言葉を「ポケット」にしたら?
とか提案したことは少しだけあるのだけれど、
結局、本にまとめるとき、
作者が最初に書いたものを活かしてしまった。
歌の取捨選択は枡野浩一ならではだけれど、
加藤治郎が選をしていたら、
またちがった佐藤真由美の魅力が出ていたはず。
プロになっていく人って、
ある部分では徹底的に柔軟で、
ある部分では「わがまま」だなと、
よく思いますね。
2005 11 20 06:09 午後 | 固定リンク