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2006.03.31

< 卒業おめでとう。 >

「かんたん短歌blog」も三年目に突入し、
新しいことをやってみたいと考えてはいるのですが、
そうそう実現しなくて歯がゆいものです。

とりわけ初期の頃から投稿してくれている
常連入選者の皆さんは、
そろそろ行き詰まりを感じたり、
別の水を求めて旅立ちたくなったり、
している頃なのではないでしょうか。

常連の皆さんに「連作」に挑戦してもらったのは、
なにかコンテストのような形で
あらためて特定のだれかに光をあて、
次のステップに踏み出してもらえたら……
という下心があったからなのです。
その企画も、
まだあきらめてしまったわけではないのですが、
とりあえず今回、
「かんたん短歌blog」に卒業生をつくろう、
と思い立ちました。

「MOE」という雑誌があって、
今も版元とスタイルを変えて存在しているのですが、
昔はイラストや漫画や童話のコンテストが充実している
マニアックなポリシーを感じさせる雑誌でした。
(短歌投稿コーナーもあり、選者は林あまりさん。
常連入選者に東直子さんがいました)
とりわけイラストコンテストが圧巻で、
毎月の入選者の中で
「この人はもうプロでしょう」
という人を卒業させるシステムがあり、
たくさんのプロが旅立ちました。
そんな感じの「卒業生」を選べたら、
と思いました。

「かんたん短歌blog」一人目の卒業生は、
宇都宮敦さんです。

彼は私が
「マスノ短歌教信者の部屋」
というBBS(電子掲示板)を運営していた頃からの
投稿者でした。
最初から抜群に歌が巧く、
余興としてやっていたコンテストで
何度も一位に選ばれていました。
最近では歌葉新人賞の次席にも選ばれました。
「かんたん短歌blog」に
投稿してくれた連作(彼のブログ参照)を読んでも、
もう彼にアドバイスをすることが特別思いつかない。
いやみだから、
早く投稿をやめてもらいたいと思いました。

以上のようなことを伝えたところ、
元・小太り歌人の宇都宮敦さんが、
はるばる台北から、
メッセージと作品を送ってくれました。

今後、
卒業生である彼からの投稿は受け付けませんが、
もし発表したい短歌やエッセイがある場合、
いつでも「かんたん短歌blog」のページを提供します。
(そのつど、原稿料がわりに、
ちょっとした記念品を送るつもりです)

宇都宮敦さん、卒業おめでとう。
これからもますます痩せ続け、
どんどん活躍していってください。

だいじょうぶ 急ぐ旅ではないのだし 急いでないし 旅でもないし (宇都宮敦)



宇都宮敦(うつのみや・あつし) 1974年千葉生まれ。現在、台北在住。2000年3月、ひょんなことから枡野浩一仮設ホームページのBBS「マスノ短歌教信者の部屋」に迷い込む。同年秋、作歌開始。2001年1月、上記BBSに短歌を初投稿。同5月、第1回かんたん短歌コンテスト入選。2002年5月、枡野浩一=選『どうぞよろしくお願いします』に3首寄稿。2003年8月、第2回歌葉新人賞一次審査通過。2005年3月、ブログ「Waiting for Tuesday」を開設するとともに「枡野浩一のかんたん短歌blog」に投稿開始。同9月、枡野浩一=選『ドラえもん短歌』に1首寄稿。同10月、第4回歌葉新人賞次席。ブログ「Waiting for Tuesday」 http://air.ap.teacup.com/utsuno/

ごあいさつ
 このたび、かんたん短歌blogを卒業することになりました。枡野さん、みなさま、今までありがとうございました。
 たぶん、これまでで枡野さんが僕の短歌に一番長いコメントをしてくれたのは、往年の枡野さんのBBSに初投稿した作品についてだったと思います。BBS上のそのコメントはとてもうれしかったのに、同時になんだか照れくさくなってコピーするのをしぶってしまいました。というわけで今ではもう読むことはできません。こんな感じで僕ははじめから終わり(いや別に終わってないが)まで不良信者だった気がします。あんまり表立ってファンであることを表明することもなく、淡々と短歌を投稿し、もしそれを目に留めてもらったら薄謝という名の立派なプレゼントをいただく。たまにイベントに出てもあいさつもそこそこに帰ってしまうような関係。それでも、僕は僕なりのやり方で、枡野さんのファンであり、尊敬していたのでした。だいたい、全著作をそろえてほとんどの連載を追っていた文筆家って枡野さんだけですし。

 最近、枡野浩一の短歌あるいはかんたん短歌について語ることの難しさを思います。作り手としての立場だと、はじめから「短歌=かんたん短歌」な場で、その手法をあまりに自然ととり入れてしまったので。それは呼吸の仕方を説明する難しさに似ているのかもしれません。読者という立場では、枡野さんの方法論がそうとう頑丈なので、それにひきずられてしまうってのがあります。たとえば、作り手の枡野さんが多くの読者に届けたくて「わかりやすさ」を選択するというのはわかるけど、読者としての僕がそれに乗っかっちゃうと自分が感じた感動に届かないんですよね。わかりやすいからおもしろいわけではないので。このへんは宿題としてもっていきます。卒業なのに宿題というのもへんな話だけど。

 それでは卒業記念に15首の短歌を置いていきます。楽しんでいただけたら幸いです。これからは遠い場所から、枡野さんを喜ばせたり唖然とさせたりできたらいいなと思っています。それが恩返しに通じることを信じて。みなさまもご健詠を! 言葉を愛するひとびとにたくさんの幸運が降りそそぎますように。
追伸:歌葉新人賞選考会時より10kgやせました。たぶん中肉中背と呼んでいいレベルだと思います(175cm・70kg)。もう誰にも小太り歌人とは呼ばせません(もともと誰も呼んでない)。

2006/3/30 宇都宮敦

   ボーナストラック

              宇都宮敦

冬だから it is time to go に「行かなくちゃ」って訳をあてとく

屋上でうどんをすする どんぶりを光のなかにわざと忘れる

ぐるぐるとマフラー巻けば冬空になにかが焦げるにおいをかいだ

昼すぎの木立のなかで着ぶくれの君と僕とはなんども出会う

腰のところで君は手をふる ちいさく さよならするのとおんなじように

ブラウン管はずしたテレビで飼っていたチャボの話をもう一度して

ポケットに手をいれ大股であるく君に語った春の計画

いつだって君の見たがる映画にはやたらと登場人物がいる

オフサイド教えてあげる男の子 教えてもらってやる女の子

耳が鳴るくらいのさびしさをあげる 雪はとおくの街で降ってる

祝福を! 脱ぎっぱなしの靴下を君におどろくほど叱られた

昼寝からめざめるまえのまどろみに君のまぶたは熱をおびてく

ウィンドが入ってくるのはウィンドウ 君を窓にはたとえはしない

心配はいらない こたつにあたりながら凍らせたヤクルトをたべよう

100個目のダジャレを ふとんがふっとんだ 唱え終えたらろうそくを消す

2006 03 31 05:50 午後 | 固定リンク