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2009.02.04

< 『美人作家は二度死ぬ』(論創社) >

という、
小谷野敦さんの新作小説。
美人作家は二度死ぬ

ご縁あって刊行前に原稿を読ませていただき、
とても面白かったので刊行を心待ちにしていました。
和風の表紙をひらくと、
あとがきに宇野常寛と枡野浩一の名前が。

どこまで明かしていいのか迷いますが、
本作は、
「文学史に名を残している某美人作家が、
もしも長生きしていたら、
今のように長く記憶されていなかっただろう」
という残酷な仮定のもとに書かれた、
そうですね、
SFと言えなくもない構造をもった作品です。

この小説内の世界では、
某美人作家は、とうに忘れられた存在。
国文学を研究する若い女性が、
「忘れられた作家」の軌跡を辿る、
というのが骨子になっています。

読んでいると、この小説内の
「世界」のルールに微妙に混乱(?)が含まれていて、
よりSFのような味わいになっていく。
あ、でも基本は「現代小説」なんですよ。淡々とした。

私は教養がなく、
某美人作家のこともほとんど知らずに読みましたが、
某美人作家のことをあれこれ知ってから読み返すと、
さらに面白いのだろうと想像します。
事実、
国文学を研究している若い友人は、
この長編の原型である短編(ウェブに発表)を読み、
「小谷野敦は小説家になればいいのに」
とまで言っていました。

でも、なんと申しますか。
既存の「本好き」とか「文学好き」とかが、
眉をひそめるような切り口ばかりを
本を出すたびに次々と提示してしまう小谷野さん……。

本書には表題作のほかに、
ごく短い短編があわせて収録されており、
表題作だけだとページ数が足りなかった旨が
あとがきには書かれていますが、
それは小谷野さん一流の冗談で、
ほんとうのところは、
雑誌等に発表すると問題がありすぎるので、
単行本で初披露となった……のでしょう(勝手な想像)。

なにしろ、
この短編「純文学の祭り」の主人公は、
『限りなく卍に近いハーケンクロイツ』
という小説で一世を風靡した男性作家。
時代は2027年。
場所は築地の料亭「新喜楽」。
そこでは今まさに、ある文学賞の選考会が……。
おお。
これもSFですね。

私は何カ所も爆笑しながら読みました。
現在の「文学」の状況に
ちょっと興味がある人、
『文学賞メッタ斬り!』
(文庫版解説を枡野が書いてます)
の愛読者たちは必読でしょう。
文学賞メッタ斬り! (ちくま文庫)

(今現在の「現実」に詳しくないと楽しみにくい、
常に今現在の「現実」を参照しつつ読む必要がある、
というのが難点にも見えますが、
小説ってじつは大抵のものが
そうなんじゃないかとも思う……)

短編には、
十代デビューで騒がれた美少女作家が、
四十三歳になって、ちらりと登場。
この短編も、
もっともっと長く読みたかったなあ……。

本書収録の二作品は共に、
「生き続けるということ」
「年を重ねるということ」
「歴史に残るということ」
などの悲喜こもごもを、
「ほら、……」
とばかりに読者に突きつけます。

この、
大真面目にふざける、
といった作者の態度に好感を持ちました。
じつはその態度は、
五反田団主宰の前田司郎のそれと相性がいいのではと
個人的に感じています。
小谷野敦の小説『童貞放浪記』の映画版は、
前田司郎が脚色を担当するそうですね。
大正解だと思います。
http://blog.livedoor.jp/dotei_horoki/tag/%C1%B0%C5%C4%BB%CA%CF%BA

なお、
文学賞批判を小説にした作家は過去に、
筒井康隆(『大いなる助走』)、
三田誠広(『龍をみたか』)、
村上春樹(糸井重里との共著の中の掌編「マット」)、
東野圭吾(『黒笑小説』)
くらいしかいないと思うのですが、
ほかにご存じの方いたら、
ご教示ください。

追記。

私の想像が外れていた箇所があったようです。失礼いたしました!
http://d.hatena.ne.jp/jun-jun1965/20090205

2009 02 04 03:13 午後 | 固定リンク

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