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2009.09.25

< 第七回枡野浩一短歌賞決定発表 >

枡野浩一短歌賞は、
あの岡井隆さんが候補に挙がったことでも知られる
意外と歴史のある短歌賞ですが、
2000年に佐藤真由美さんに授賞(第六回)して以降、
事実上中断していました。

佐藤真由美さんの受賞作『脚を切る』は、
拙著『かんたん短歌の作り方』(筑摩書房)の
234ページで読むことができます。
かんたん短歌の作り方―マスノ短歌教を信じますの?

さて、
今回の授賞作は以下のとおりです。

受賞作:「星野しずるの犬猿短歌(いぬざるたんか)」佐々木あらら
http://1st.geocities.jp/sasakiarara/index.html

この作品自体は昨年から存在していたらしいのですが、
私はつい先日、ついったー上で知りました。
そのことの不覚をまずおわびしたいと思います。

私は『かんたん短歌の作り方』(筑摩書房)や
『一人で始める短歌入門』(ちくま文庫)に
詳しく綴ったような短歌観を持つ歌人ですが、
しかし一方で、
正岡豊や早坂類のような歌人も愛しております。
自分には詠めない「詩的飛躍のある短歌」には、
「複雑な気持ち」を持ち続けていました。

その「複雑な気持ち」を、
まさかこのような方法で、
さらに刺激されることがあろうとは。

正岡豊や早坂類に及ばない、
半端なきらめきを放つ偽物の宝石のような短歌は、
この作品の存在によって今後いっそうレゾンデトールを
揺るがされることになるのではないでしょうか?
……無理して難しい横文字をつかったので、
つかい方まちがってたらすみません。

難解な俳句や短歌を見ると私は、
赤瀬川原平らが発見した
「超芸術トマソン」
のことを考えます。
読み手が自由に「解釈」していく行為は、
きわめると、
「超芸術トマソン」的な「見立て」
に行き着くと思うのです。

星野しずるさんの短歌は、
そんなことも再認識させてくれました。

とにかく、
単純に面白いです。
皆さんも遊んでみてください。

これ、
同じ仕組みを別の人がつくっても、
言葉のチョイスがあれだったら
つまらなかったと思う。
その意味で佐々木あららのセンスに支えられた
「作品」であるのだと私は考えます。

また、
佐々木あららは別名義で昔、
言葉を扱う系の「パズル」を創作・出版したことがあり、
その世界では名前が轟いていると(その世界の人に)聞いて、
「なるほど」と思ったことがあります。

この才能をますます開花させるにはどうしたらいいのか。

以上をもって簡単な選評とさせていただきます。
以下に、
佐々木あらら氏による受賞の言葉その他を掲載します。



【受賞あいさつ】文=佐々木あらら

 このたび星野しずるが「枡野浩一短歌賞」を受賞したことは望外の喜びであります。
 なんでも、前回佐藤真由美さんが受賞して以来、しばらく受賞者が出なかったとか。佐藤真由美さんといえば私のもっとも好きな歌人の一人ですから、そのことだけでも大変光栄に思っています。

 思えば、星野しずること「犬猿」は、昨年の5月、ミクシィ日記でつぶやいたこんなひとことに端を発しました。
---
「はてしない物語」では、猿の話がいちばん好き。
言葉を忘れた猿たちが文字の書いてあるサイコロを一度に振って、
文章ができるわずかな確率を待ち続けている、というシーン。

「面雀短歌」と仁尾さんと僕とが呼んでいるある種の短歌は、
なんかこんな感じの猿がつくっててもおかしくない。
というか猿につくらせたほうが楽しいし、楽だと思うよ。

そして僕は面雀が嫌いではないので、
そうやってつくった、ということにさばさばしてくれていれば
結構「面雀短歌」はアリだと思っています。
今度、「アリ」の面雀短歌を面雀システムでつくってみる実験をしようじゃないか。
僕おもでやるか。放送自体が「アリ」になるのか自信ないけど。
---
(注:あとで確認したところ、「はてしない物語」でサイコロを振っているのは猿ではなく人間でした。サイコロを振らせているのが猿でした)
(注2:文中、「僕おも」とあるのは、ポッドキャスト番組「僕たちだけがおもしろい」の略です。詳細は文末のプロフィール参照)

 そして、記録によれば、5月12日の18時39分に、「犬猿」の仮のスクリプトが完成したとあります。仮とはいえ、基本の部分はほとんど今と同じ状態ですから、「星野しずるは5月12日生まれのおうし座」といっていいかと思います。萩尾望都さんと同じですね。
 記録に残されている中で、いちばん最初につくられた短歌は

●動かない苦しい闇を見ていたらわたしはまるでただの球体(星野しずる)

です。以後、「犬猿」は、その歌風をほとんど変えることなく、発表する際のペンネームが「星野しずる」と決まったり、題詠2008に参戦したり、1年以上ほったらかしにされたり、手慰みに時折いじられたり、ついったー経由で紹介されて突如多くの人に回されはじめたりなどして、今にいたりました。みなさんに愛された結果だと思っています。ありがとうございます。

 星野しずるが話題となり、こうして素晴らしい賞をいただいても、私の考えは同じです。私はしずるがつくるような短歌がけっして嫌いではないですが、こんな短歌なら、人間がつくらず、犬や猿につくらせたほうがずっと楽しい。読み手の鑑賞力がある程度高いと、こんな簡単な仕組みでも、おもしろがれる短歌はつくれてしまいます。人間のつくる短歌はこんなものに負ける程度の志で挑んではいけないと私は思う。しずるとは別のところ、あるいはしずるを超えてもっと高いところに、きっと、素晴らしく魅力的な短歌がある。私はそういう短歌が読みたい。そう願っています。

 最後に。「枡野浩一短歌賞」をいただくことは大変喜ばしいことですが、ひとつだけ悔しいことがあります。星野しずるが獲る前に、まず、自分の短歌で獲りたかった……。次回というものがいつあるのかはわからない賞ですが、次回以降、チャンスがあれば、しずるなんかためらうことなく踏み越えて狙っていきたいと思います。
 どうもありがとうございました。


【授賞の対象となった代表作および最近作】選=佐々木あらら

<犬猿2008題詠バージョンにおける傑作10首> ※括弧内は短歌生成者。作者はすべて星野しずる。

おはようの世界の先に走り去る静かな舟を見ていたら声 (仁尾智)
朝焼けを見ている濡れたライオンはサッカー部員の誰かに似てる (佐々木あらら)
茶畑が怖くって雨 とくべつな雨を見ている朝の次元獣 (中野玉子)
張りつめた世界の雪を呼んでいる理由のようなつめたい木立 (仁尾智)
アマゾンのどこかで赤い音楽を集め深紅の球体をゆく (佐々木あらら)
五線譜の泉の底で銀色のつめたい猿に教わった歌 (佐々木あらら)
あたらしい世界の壁に会う頃は地球にみえる静かなくじら (青木麦生)
パンプスを愛して雨の永遠になったアジアの朝焼けですね (森文月)
ペンギンのすばるをかかえ真夜中の真っ赤な象を追いかける 壁 (高橋えっくす)
結晶はすべての記憶 きえてゆくおぼろ豆腐という名の女 (森文月)



<現バージョンでの傑作選10首> ※括弧内は短歌生成者。作者はすべて星野しずる。

静かなるどこでもドアのはずだった雪の銀河を捨て去ろう お茶  (枡野浩一)
Googleへ逃げ込む老いた残像に恋をしている鬱病の母  (田川未明)
金色の缶コーヒーにつつまれたひとりよがりな午後を集めて (稲荷辺長太)
美しい記憶の鳩から遠ざかる夏のらせんはねじが足りない (以下すべて佐々木あらら)
鳩が好き 汚れた僕に近づけば空一面の加速度の夢
まなざしを愛して雨の直線をたどってゆけばとくべつな馬
歌を見た 深いしずくに教わった罠の機械をじっと見ていた
血塗られた夢を見ているまばたきはわたしの謎をさらってしまう
罪ですか 小さな母より重かった哲学的なかなしみよりも
金色のぼんやりとした花の死よ いちごミルクをじっと見ていた


【佐々木あららプロフィール】
1974年2月17日生。2004年より「枡野浩一のかんたん短歌blog」に投稿を始める。代表作は「外に出すのが愛なのか中で出すのが愛なのか迷って出した」「それなりに心苦しい 君からの電話をとらず変える体位は」他。枡野浩一の著作『かなしーおもちゃ』『ドラえもん短歌』『ショートソング』に短歌提供、ゴーストライター、企画協力などとして参加。公式ブログは「中で出すのが愛なのか」(http://ararara.exblog.jp)。現在、歌人の仁尾智と共に毎週ぐだぐだしゃべるポッドキャストトーク番組「僕たちだけがおもしろい」(http://bokuomo.seesaa.net)が絶賛配信中。

かなしーおもちゃ―あるある短歌〈1〉 (ココログブックス)
ドラえもん短歌
ショートソング (集英社文庫)

2009 09 25 05:45 午後 | 固定リンク | トラックバック

2009.09.08

< 短歌の連載スタート! >

http://wol.nikkeibp.co.jp/
日経ウーマンオンラインの「日々経る短歌」 。
本日から毎日、 平日のみの更新。

とりあえず数回は
枡野浩一自身の代表作を紹介し、
それから
「かんたん短歌blog」の入選作
http://masuno-tanka.cocolog-nifty.com/blog/2009/08/blog-1d55.html
(↑皆さん連絡ありがとう!)
を紹介し、
以後は公募で集まった皆さんの短歌を紹介していく、
という心づもりの連載です。

それにともなって
「かんたん短歌blog」でも
短歌をまた地味に受け付けることにしました。
その募集要項は今月末までには
発表できると思います。

どこかポジティブな匂いのある歌を
読みたいと思っています。
ネガティブで面白い短歌より
ポジティブで面白い短歌のほうが
詠むのが難しいです。

ゆくゆくは単行本にまとまるといいな、
と夢みています。
どうぞよろしくお願いします。

2009 09 08 06:01 午前 | 固定リンク | トラックバック